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apo (id:MANGAMEGAMONDO) が妄想を吐き出していきます。

グァテマラ日記(06)

流されてみる、ってのも悪くないな

シャワー→パッキング→朝食(ホテル内でトーストとコーヒー)→チェックアウト。起床から、ここまで45分。なんてステキな日本人! いや、そうじゃなくて、飲み過ぎて4時間もバスに乗ってはいけないってことだ。学校に8時5分前に行く約束なのに、起きてみたら余裕で7時過ぎ。日本で同じことが起こったら、まず間違いなく、サボるにちがいない。

スペイン語学校は、パルケ・セントロ・アメリカに面した1900年に建っためちゃめちゃ古いビルにある。授業は、午前8時から午後1時まで。10時半から30分の休憩。そのあとホスト・ファミリーの家でランチをとって、2時半くらいから課外授業(っていうか遠足)がある。apoの個人授業のお相手は、シルヴィアという21歳のセニョリータ。今まで外人のほかに、インディヘナの子どもや母親にスペイン語を教えていたという。

この日は初めてだったので、ボキャブラリーの授業。絵を見せられて「これ、スペイン語で言ってみて?」「デカいイヌ」「ちがうわ〜、これはね、タ・ヌ・キって言うの! じゃ、これは?」「もっとデカいイヌ」「ちがうわ〜、これはね、クマ! OK? じゃあ、次はこれ、これはクマの仲間よ」「もっとかわいいクマ!」「うーん、そうなんだけど、アライグマって言うの」……これが、延々と続く。うーん、でもヤマアラシとか覚えても使いどころはあるのでしょうか? 聞かれてばかりでもつまらないので、こっちからも聞いてみる。

「こういうまんまるの月はなんて言いますか?」「知ってるわよ。それは、ま・ん・げ・つ」「じゃあ、半分は?」「は・ん・げ・つ」「じゃあこういう形のは?(と、三日月を書く)」「名前、ないわ」「ウソ!」「あるかもしれないけど、アタシ知らないわ」「じゃあ、これは(と○を黒く塗りつぶす)」「何って言うのかしら? 隠れた月かなぁ」「正式名称でお願いします」「でも、それ、一般に使わないし……」「わかりました、じゃあ、それ宿題にしますから、明日教えてね」「……」ごめんね、シルヴィア、疲れさせて。だって退屈になりそうだったんだもん。

1時にオフィスに降りていくと、これから2週間お世話になるホストファミリーがapoを待っていた。昨日面接で、ステイ先がどんな家庭か聞いたら「ミドルクラスのラディーノ*1」と聞いて、それじゃあインディヘナ*2の習慣とか暮らしの中にはないだろうなとちょっとガックリしてたんだけど、ヴィクトリアの風貌は、いかにも「外人の扱いは慣れてる」ってカンジのインディヘナだ。だけど連れてきた男の子は白人らしさが出てるから、この家庭はラディーノなんだな、と勝手に解釈する。

ヴィクトリアの家は小さな洋品店を営んでいて、ヴィクトリアと夫、息子のアレックス、それにヴィクトリアのお母さんと叔母、妹、ネコという女性優位の家族構成。部屋で荷物を解いたら、さっそく昼食*3で、そのあと話すまもなく、さっそく課外授業に出るため学校へ。

今日行くのは、中米でいちばん古いカソリックの教会があるインディヘナの村サルカハ(Zalcaja)。昨日、グァテから来る途中に見た村だ。メルカード(市場)を歩き、教会とイカットという民族衣装のスカートやズボンに使われる織物の造られる工程を見学。ただ、apoのお目当ては別にあった。

今日、行けるとは思わなかったよ、ホルヘ。あの4時間ノン・ストップ・トークに登場した噂の激ウマリキュールに、さっそくお目にかかれるだなんて!
「カルド・デ・フルータスって言うんだけどね、昔はみんな家で隠れて造ってたんだよ。リンゴとかいろんな果物が入った果実酒なんだけど、そのうちの一つ“ナンセ”、これがサイコーでね。なんでもリラックス効果もあるらしーよ(ウソだった)」「うわー、それ、絶対ゲットしなくちゃ! そのお酒、ケツァルテナンゴでは買えないの?」「ムリ。あとロンポポってのもあるよ。これは卵とラムとあと何かと何かで造ったやつ。私はどっちかっていえば、カルドだな」「うー、飲みたいよう。いや、ワタクシ絶対に飲まなくてはいけません」「じゃあ、金曜日に電話くれたら連れてくよ」「ホントー! 絶対、するする!」……悪いね、電話する理由なくなっちゃって。

学校で、カルド・デ・フルータス(caldo de frutas)を造ってるところに連れてってくれた。さあ、お待ちかねテイスティング・ターイム。ウマイ+アマイ。そうね、たとえて言うなら、味は杏露酒とカシスを足したカンジ、色はアセロラドリンクみたいな濃い赤で、なんだけどけっこうサラっとしてる。ウマイな。さらに、ロンポポ(rompopo)はカスタードとカルーアを足して2で割ったカンジでこりゃ、ナイトキャップに最適。どっちにしようか迷った挙げ句、ロンポポの大瓶をゲットする。

ファミリアに帰ると、もう6時から夕食。シャワーを浴びて、自室に引き籠もろうと思ったら、昼間会わなかったヴィクトリアのお母さんが片づけものをしてたのでご挨拶。お母さんは民族衣装を着ていて、この家で唯一apoに「あなた*4」と呼びかける人だ。話し方もていねいでわかりやすい。コーヒーを勧められて、今日の学校でのことや、ケツァルテナンゴのことを話し「そう、Zalcajaでロンポポを買ってきたんですよー、飲みます?」「あらいいわね」で、一緒に一杯始まった。「そんなに注がないでいいわ。これはおいしいけど、たくさん飲んだらダメよ」と言いながら、すっかりなごんできたapoとお母さん。「なんでグァテマラに来たの?」という話になり、「インディヘナの文化に興味があって。っていうか、ワタシ、サセルドーテ・マヤに会いたいんです」「私もサセルドーテだけど?」「!」「儀式で使うものを買ってくれるなら、儀式もやってあげるわよ」「!!!!!!!」

そのあと、普及版のマヤ・カレンダー*5を見せてもらって日付の説明を聞いたりする。ほほぅ〜と見ているapoに「あとはお部屋でご覧なさい。もう遅いから、私は寝るわ」とおやすみなさいをする。

飲み過ぎてバスを乗り過ごし、4時間ノン・ストップ・トークでくたびれ、すごく行くて日本からコンタクトをとっていたスペイン語学校に失望させられた。でも、これらのどれか一つでも欠けたら、こんなに近くでサセルドーテ・マヤに会えなかったのだ。流されてみる、ってのも悪くないな。3杯目のロンポポをなめながら、甘い眠りに落ちていく。

*1:ladino…スペイン人の血をひいた人々。つまり新大陸で生まれた白人と、白人+インディヘナの混血を指す。混血だけを指す場合はメスティーソ(mestizo/混血)。グァテマラでの人口の約55%を占める。

*2:indigena…先住民。当然だがここではマヤ系先住民族インディオ(indio)は、インド人も意味することと、一時、蔑称と言われたため使われない。インド人を指すときもヒンドゥー(hindu)と呼ばれるようになった。グァテマラの人口の45%を占めるマヤ系インディヘナは、ここケツァルテナンゴ周辺に暮らす国内最大の部族のキチェ、マム、カクチケルなど23の部族に分かれ、それぞれが別の言語を持つ。また、血はどうであれ「インディヘナである」と意思表示し、民族衣装を着用するなどしている人も、インディヘナに含まれるようだ

*3:almuerzo/アルムエルソ…グァテマラでは一日でメインの食事は夕食じゃなくて昼食。ご家庭でも一応コースになる

*4:usuted/ウステッ…スペイン語には二人称の“あなた、キミ、お前”のtuと三人称の“あなた”ustedがある。tuが家族や親しい友人など近しい間柄で使うタメ口であるのに対し、ustedは目上の人、初対面の人など敬意を込めた呼び方。またapoの先生のシルヴィアは、彼氏でない大切な男友だちとの関係について「カレとは、ustedで呼び合うの。ワタシ、そのカンジが好きだわ」とほのかにときめいていた。かつて白人に対してはすべてustedだったとか、だから「お前ら」にあたる二人称複数形が中南米で使われないとか、植民地時代の名残りでもあるようだが。

*5:古代マヤ人は1年を365.2421と計算したことで知られている。現在私たちが使っているグレゴリオ暦は365.2425日、地球の公転日数は365.2422日なので、この精度は非常に高い。彼らはハアブ(太陽)暦と260日周期のツォルキン(神聖)暦とを組み合わせて使っていた。これは簡易版で、太陽暦に儀式に欠かせないツォルキン暦の20日(ナワール)が付記されているもの。発行元: Fundacion Centro Cultural y Asistencia Maya(C.C.A.M) 4a.Ave San Juan 0-04 Zona1 Chichicastenango 参考: マヤ暦と歴史