棄権と欠席の違いを考えた
10/12に賛成多数で採択されたロシアのウクライナ違法併合を非難する決議の棄権した国・欠席した国に注目してみた。
棄権:35
【ヨーロッパ】アルメニア・ベラルーシ
【アジア】中国・インド・カザフスタン・キルギス・ラオス・モンゴル・パキスタン・スリランカ・タジキスタン・タイ・ウズベキスタン・ベトナム
【アフリカ】アルジェリア・ブルンジ・中央アフリカ・コンゴ・エリトリア・エスワティニ・エチオピア・ギニア・レソト・マリ・モザンビーク・ナミビア・南アフリカ・南スーダン・スーダン・トーゴ・ウガンダ・タンザニア・ジンバブエ
【中南米】ボリビア・キューバ・ホンデュラス
欠席:10
【アジア】アゼルバイジャン・イラン・トルクメニスタン
【アフリカ】ブルキナファソ・カメルーン・ジブチ・赤道ギニア・サントメプリンシペ
【中南米】エルサルバドル・ベネズエラ
この差は何だろう?
もちろん一概には言えないし、イランとベネズエラは、国連分担金の未納で投票権が停止されているかもしれない*1。でも、こんな違いを見つけた。
国境紛争中の周辺国
アゼルバイジャン→欠席
アルメニア→棄権
キルギス→棄権
タジキスタン→棄権
欠席したアゼルバイジャンと棄権したアルメニアには、伝統的な領土紛争、ナゴルノ・カラバフ戦争がある。アゼルバイジャンが領土を武力で部分制圧した2020年の戦闘ではロシアの介入で停戦合意に漕ぎつけた。この停戦協定を破る形で今年9月に軍事衝突が起きた。
伝統的にキリスト教国アルメニアはロシアが支持、テュルク系のアゼルバイジャンはトルコをはじめとするテュルク系国家が支持している。アルメニア*2にすれば、ロシアのウクライナ侵攻を非難するのに、アルメニア人が多く住むナゴルノ・カラバフの領土をアゼルバイジャンが奪うのはOKで、ましてナゴルノ・カラバフ(アルツァフ共和国)を国とすら認めないというのは納得いかないはずだ。一方、アゼルバイジャンとウクライナは反ロシアの色濃いGUAM*3を結成する盟友であり、ウクライナはアゼルバイジャンを支持している。
ともに棄権しているキルギスとタジキスタンも、今年9月に飛び地が多いキルギスのバトケン州で国境衝突が起き、死者100人に達した。キルギスとタジキスタンはともにロシアと同盟関係にあり、ロシア軍基地を抱えている。中央アジアの国境問題は旧ソ連時代の移民政策に起因し、ロシアはどちらにも加担せず、両国に平和的な解決を呼びかけてきた。ロシアのウクライナ侵攻で、再び緊張が高まっている。
この4か国の場合、ロシアを同盟と考えるか、非同盟と考えるかで棄権、欠席と分かれたのかもしれない。
周辺国+○○スタン
もしそうだとしたら、モンゴル・ウズベキスタン・パキスタンは依然、親ロシアの、トルクメニスタンは意外にもすでに脱ロシアの、マインドを持っていそうだ。
【反対】ロシア・ベラルーシ
【棄権】アルメニア・カザフスタン・キルギス・モンゴル・タジキスタン・ウズベキスタン・パキスタン
【賛成】ウクライナ・アフガニスタン・バルト3国*4・ジョージア・ハンガリー・モルドバ・ルーマニア・スロバキア
【欠席】アゼルバイジャン・トルクメニスタン
○○スタンで唯一、賛成票を投じたアフガニスタンにとっては、ウクライナは43年前の自国を見るような気持ちかもしれない。9月にはロシア大使館への自爆テロが起きている。アフガンに武力侵攻したソ連を国際社会は批判し、今回と同様に経済制裁を突きつけ、モスクワ五輪をボイコットした。アフガニスタンは10年かけて、国際社会から孤立したソ連を泥沼に引きずりこみ、疲弊させる。一方、アメリカとの軍拡競争によって膨らむ国防費が経済をひっ迫していく。これが、のちのペレストロイカ、ソビエト連邦崩壊につながった。すれば、いろんな国や自治区のロシアからの分離・独立もあるのだろうか。
アジア
【賛成】バングラディッシュ・ブータン・ブルネイ・カンボジア・インドネシア・日本・マレーシア・ミャンマー・ネパール・フィリピン・韓国・東ティモール・シンガポール
【棄権】中国・インド・スリランカ・ラオス・タイ・ベトナム
翻って、アジア。いや~なんだか匂う。
東南アジアは、ロシアの軍事装備をお買い上げしてくれるお得意様。軍事的な結びつきの強度の違いが投票行動のばらつきとして表れたようだ。ロシアの装備輸出先として東南アジア第1位のベトナムは、歴史的経緯や教育面でも結びつきが深い。ラオスは、ロシア・ラオス空軍の共用軍事基地をロシアが建設するなど軍事面に加え、原子力協力や原油調達などエネルギー面での依存度も高い。ミャンマーは、現在の軍事政権でなく、クーデター前の文民政権の引き続き代表を務める大使が投票した。一方、タイは軍事色が強い政権から代表者が送られている。
エネルギー面・軍事面での結びつきもあるインドだが、それは依存ではなく、西側よりになりすぎず、ロシアとの距離を保ち、ライバル中国を制する、バランシング外交なのだという。モディ首相は、アメリカから「ロシア離れ」を説得されながら、プーチンに苦言を呈するし、石油を買うのを止めるつもりもない。ロシアと「無制限のパートナーシップ」を結んでいる中国も、インドにも西側にも負けられない戦いがある。プーチン後のロシアのせいで、中国の夢の実現が阻まれてはたまらない。その結果、ライバル同士が同じ手を指した、ってとこだろうか。
これが当たってるかどうかはまったくわからないけど、行動には必ず意図があるし、意図の違いが行動には必ず表われる。言葉と違って、行動は嘘をつかないし、意図があることを隠さない。そして妄想は楽しい。