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apo (id:MANGAMEGAMONDO) が妄想を吐き出していきます。

笑い飛ばしゃ、いいだろ?

昨年10月、デンマーク保守系有力紙「ユランズ・ポステン(Jyllands-Posten)」紙が掲載したイスラム教預言者ムハンマドの風刺漫画が、文明の衝突の火種になっている。

偶像崇拝を禁じるイスラム教で「ムハンマドを描くなんて、冒涜」ってわけだ。それで、世界的にイスラム教徒は反発&猛抗議&謝罪を要求。また、新聞社が風刺漫画を掲載したノルウェー、フランス、ドイツ*1は「謝罪しないと市民を誘拐するぞ」と武装集団が脅かした。シリアでは、デンマークノルウェースウェーデン、チリの大使館に火がかけられ、フランス大使館には投石、ほかに発砲事件や暴徒化したデモを警察が鎮静化する事件も起こっている。サウジアラビアは大使を引き上げた。デンマークノルウェー両政府はシリア・レバノン国内にいる自国民にASAPで帰国しろと呼びかけている。インドネシアパキスタンアフガニスタンなどにもデモは広がっている。

南アフリカでは、この風刺漫画の掲載を裁判所が禁じた。ヨルダンでは風刺漫画の掲載に踏み切ったシハン紙のモマニ編集長が逮捕された。この騒ぎを対岸から見ていたアメリカのメディアが揃いも揃って「我々には、宗教上・民族上の琴線を鑑みた、一般的に受け容れられる言語表記上の標準規格がある(レオナルド・ダウニーJr./The Washington Post編集主幹)」とか「(風刺漫画の掲載は)まちがいなく攻撃的だ(ジム・マイケルズ/USA Today外信副部長)」とか、いつになく非常に控えめなのが笑わせる*2。「表現の自由」をタテに突っぱねていたユランズ・ポステン紙もついに謝罪する。

はぁ? たかがマンガに「気にくわないから」と放火ですか? 暴力ですか?

たしかにこの風刺漫画はお下品だ。だけど、よく見てみれば「ユランズ・ポステンの記者は、釣り師集団なのであーる」と指導してたり、「止まれ、止まれ。処女が底をついた(から入れない)」*3デンマークの移民政策への批判とも、押し掛けてくるイスラム教徒への批判ともとれる。少なくとも、単なる宗教バッシングやイスラム教の冒涜が目的ではないことはわかる。

この風刺漫画が出たのは、「もしかして、移民法、厳しすぎじゃない?」という移民局局長の発言がニュースになったすぐあとだった。デンマーク人がEU、あるいは北欧諸国以外の移民を配偶者か公認パートナーにする場合、

  • 24歳以上
  • 3年以上固定の住所で、2人1部屋以上、あるいは総面積が1人当たり20平米以上の広さの住居がある
  • デンマーク政府に5万5421デンマーク・クローネ(約106万円)の保証金を払える経済力がある
  • 一定期間は公的補助金が受けられない

などといったことが法律に定められている。移民対策の強化と社会福祉の見直しを訴えて与党になった現ラスムセン政権は、移民規制を強硬に進める極右のデンマーク国民党(Dansk Folke Parti)の閣外協力を得て、政権運営をしている。なのに、移民策をゆるくしましょうなんてとんでもない、とさっそく危機感を煽った。国民党のオバサンなんて、張り切りすぎて「(イスラム教徒は)デンマーク人の女の子をレイプして、デンマーク市民を根絶やしにするわ!間違いない!」と大バカ発言して大騒ぎにもなった。

ハッピーな日本人旅行客のナイスプレイで、人魚姫は救出されたが、人魚姫にチャドルをかぶせて「トルコがEU入りですって!?」とかやっちゃうくらい、デンマークイスラム系移民への抵抗感は強い。そりゃ、不法滞在者が1部屋に何人も何十人も住み着いたり、年端もいかない娘をメール・オーダー・ブライドとして送り込んで家族ごととか、子どもたくさん生ませて生活補助ゲットとか、笑って許せないだろう。そのため、あの手この手で押し寄せてくるイスラム教国からの移民を規制してきた。さらに、殺されたって絶対服従な封建的な家長制度を持ち込まれたらどうしよう、という恐怖感もある。そんなブッソウなシキタリを持ち込まれたんじゃ、たまらない。

ところが、そういう根本の問題は、ニセ・ムハンマドによってベールをかけられてしまった。ムハンマドを持ち出したデンマーク人もバカだけど、異教徒が描いた真実のはずがないムハンマドを「冒涜だ」と騒ぐムスリムムスリムだ。なんのためにアラーはカアバ神殿の偶像崇拝を止めさせたのか? なんで、コーランよりも、異教徒の新聞や漫画家を信じるのか? 騒いでるヒマがあったら、お祈りしたらどうか? そのうえで、どこにあるムハンマドが真実の姿なのか、自分に問い直したらどうか? 逮捕されたヨルダンの編集長*4のように。

世界のイスラム教徒よ、理性的に行動しよう。これら漫画と自爆テロリストのどちらがイスラムに偏見をもたらすだろうか。

実に嘆かわしい。風刺漫画を描いた無知な異教徒の首には懸賞金がかかった。風刺という笑いに風刺で対抗せず、暴力で報復する。こういうニュースを聞くたびに、イスラム教徒は、実は世界中から永遠に理解されたくないのではないかと勘違いしてしまいそうだ。これが、輝かしい信仰という道だとしたら、現存する精神世界のあまりの貧しさに絶望するしかない。

好むと好まざると、北アフリカはバリバリの反ユダヤ主義に染まってるし、パレスティナ問題のためにも、大いに語られるべきだよ。解決はしないけれど、隠し立てするつもりもないね。だって、ユダヤ嫌いなんてアラブ人に限ったことじゃない。ポーランド人の僕の義母だって、負けず劣らずの強硬派だ。反ユダヤ主義にかかわらず、なんであろうと、笑い飛ばせないものなんかないって僕は思うのさ。

このムスリム・アーティストが、すばらしいアートワークで反ユダヤ主義を表現することを、ベルギー政府は奨励している。彼が路上で暗殺される恐怖を味わうことはないだろう。

*1:このあと、ベルギー、イタリア、スペイン、ニュージーランドの新聞社も風刺漫画を掲載した

*2:姑息に「ウェブ版では土日に、(マンガを掲載している)外部サイトにリンクしてます」ってとこもあるけど

*3:天国入りを拒まれてるカミカゼボマーらしいが。しかもジハードの報酬としてあてがわれるはずの処女がブドウだったというオチもあるそうだ。その解説→http://homepage.mac.com/naoyuki_hashimoto/iblog/C394170269/E20060205112623/index.html

*4:シーハン紙は、「デンマークの罪深さ」をイスラム教徒に示すため、ムハンマド風刺漫画を掲載し、編集長名で社説も発表した。そのなかでユランズ・ポステン紙の謝罪を「イスラム世界では誰も聞きたくないようだ」と指摘。昨年11月にアンマンで同時爆弾テロを起こしたイスラム過激派の犯人らを例に、「イスラムを傷つけているのはどちらのほうだ」と問い掛け、読者に冷静な対応を促した。しかし、強力な反発に遭い編集長を2日に解任され、 宗教冒涜容疑で司法当局に拘束された。