表現の自由:私はマホメットを描いてはいけない
"Chape de plomb" Plantu, Le Monde, 02/03/2006
ル・モンドが3日の1面に掲載したムハンマドの風刺漫画。「私はマホメットを描いてはいけない(Je ne dois pas dessiner Mahomet)」という文で預言者らしき人物を描いている。ル・モンドが紹介している「表現の自由の主張」する欧州メディア*1のほかにも、スペイン、イタリア、オランダ、チェコのメディアが侵されざるべき表現の自由を御旗に論陣を張っている。「表現の自由」vs「宗教的な尊厳」の戦いは激化するだろう。
どちらも正しい。けれど、破壊活動で対抗するのはナンセンスだ──と昨日、書いた。同時に、「表現の自由の主張」が、武器の一つとして使われることもナンセンスだ。でも、そういうことになるようだ。
フランスの考える常識(たとえば、女性蔑視をしてはいけない、とか)に「表現の自由」は組み込まれ、それを認められない(=フランスのモラルを遵守しない)ならお断り、という理由になる。そんな相容れない理由が多ければ多いほど好都合だ。あとは、ちょっとしたきっかけがあれば、動く。しかも今はきっかけに事欠かない。そうなる土壌も整っていた。一昨年、オランダではテオ・ゴッホが「話せばわかる。慈悲を」と言ってイスラム過激派に殺され、風刺画問題の震源地デンマークでは昨年、マルガレーテ2世女王が「イスラム移民への寛容をあらためよう」と発言し、約17万人*2のイスラム移民への警戒心を高め、移民排斥を訴える右派を勇気づけた。
フランス:移民選別受け入れ法案提出へ 昨秋の暴動受け
【パリ福井聡】来春の仏大統領選挙の有力候補、サルコジ内相は5日付の仏ジャーナル・ド・デマンシェ紙との会見で、移民を受け入れる際、技術者などを優遇する一方、国家利益に沿わない場合は入国を厳しくする法案を9日の閣議に提出すると表明した。昨秋の移民系若者による暴動を受け、移民受け入れでの選別化を明確にする形だ。
同紙によると、内相は「我々に打撃を与えるような移民でなく、新たな移民基準に合う場合のみ受け入れる。すべて受け入れる時代は終わった」と強調。例えば、科学者、コンピューター技術者、芸術家、経済振興に貢献できる者などには3年間の滞在許可証が与えられたり、仏人学生数が少ない分野では外国人学生は優先される。
一方で、正規書類を持たないまま10年以上滞仏する外国人には、自動的に居住許可証が更新されないようになる。また、10年間の滞在許可証を与えられた者は仏語を学び、男女同権などの仏法規順守を証明しなければならない。また移民が家族を呼び寄せる場合は給与で賄えることを証明せねばならない−−など。
欧州では近年、不法滞在移民による犯罪の増加などから、移民制限を強める傾向が強まっており、同様の移民受け入れの差別化はドイツやオランダなどでも進んでいる。
精神性を力でアピールのがナンセンスであるように、自由をモラルで縛るのも同じくらいバカバカしい。プラントゥ氏が「私はマホメットを描いてはいけない」で表現した預言者は、何ものも縛り得ない自由の姿である。宗教も、神も、政府も、暴力も自由を縛ることはできない。
けれど、それを理由に他者を縛ろうとするならば、必ず自由の反撃に遭うことになるだろう。自由は自己に縛られる弱さを嫌い、拒絶するからだ。