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apo (id:MANGAMEGAMONDO) が妄想を吐き出していきます。

グァテマラ日記(04)19:45pm

「博物館へ行きます。面倒をみてください」

朝7時に、夕べ死んでた友人のモーニングコールで起こされる。感動のご対面もそこそこに「このホテル、高いよねぇ」。ヨーグルトをかけたてんこ盛りのフルーツをついばみながら、ホテル批評をおっぱじめる。とても怖じ気づきながら太平洋を渡ってきたとは思えない。「あの仏壇に入ったテレビ*1はともかく、アメニティなんて何にもないジャン」「たしかにトウキョウと比べたらね。ミニバーもないし」「でも、トウキョウと同じ値段だよ」「ええっ、いったいいくら払ったの?」「100ドルですよ、マダーム。ケツァールじゃなくて」。

夕べはともかく、今日はホテル移るわ、と言ったら、待って、うちの代理店に話してみるから、と彼女。そんなわけで8時にピックアップに来たエージェントのギジェルモがさっそく交渉開始。どんな手(「この人も同じ会社の人だった」とか言っていたが、それだけではないようだ)を使ったか知らないが、30分ねばって100ドルが64ドルにディスカウントされた。

予定より30分遅れて彼女たちが出発したあと、64ドルなら申し分ない部屋に戻り、夕べ飲み残したワインをすすりつつテレビをつける。あら、ボローニャ-ACミラン戦がちょうど始まったところじゃないの。どういう時差になっているんだ? たぶんよく考えればわかるのだろうが、考えるのは放棄した。今日は日曜日なのでほとんどの博物館や美術館も休み。友人が帰ってくる7時まで、サッカーを観たりとかして、ホテルでのんびりくつろぐのもいいかも。だけど
1.たぶん唯一空いている考古学博物館*2とその近くの民芸品市場に行く
2.明日の朝のケツァルテナンゴ行きのバスのチケットを買う
のミッションがあるので、ネスタとカカに後ろ髪引かれながら重い腰をあげる。

とくに2番は重要だが、長距離バスのオフィスはデンジャラスといわれるソナ1にある。そこへ行くと言ったら友人から「バスで行くの?」と尋ねられた。「いえいえ、正しいお客様としてタクシーで行きますわよ、マダーム」。もうね、バックパック担いで、とか苦労する旅はノ・グラシァスですの。

そんなわけで、ニセとはいえカミノ・レアル系ホテルのお客様として「考古学博物館までタクシーを呼んで」とベルボーイに頼んだのだが、彼がどうも素直にタクシーを呼ばない。「近いんですよ」「歩いていけるってこと?」「いえ、バスのほうが安いです」そう言って「ムセオス(博物館)*3までいくらだ」と同僚と話している。さっきこのベルボーイには、VISAのキャッシュディスペンサーがあるニセノ・レアルのカジノまで案内してもらった。apoがお金を持っていることは知っているじゃないか。第一、このホテルに泊まっているということがどういうことなのかだって、彼は知っているはずだ。なのになぜ、タクシーを呼ぶのにそこまで躊躇する?

「彼女がタクシーで行きたいっていうなら、いいじゃないか」と同僚も言う。そうだ、そうだ。ところが彼は納得しない。そして「紙をお持ちですか?」

日記兼メモにしているノートを出すと、そこにスペイン語で「ムセオスへ行きます。ワタシの面倒をみてください」と書いた。「レフォルマ通りのあちら側で63番のバスに乗って、これを運転手に渡してください」。帰ってくるときも同じバスです、と言いながら同じ紙に“63, come back in the same bus”と書き込んでいる。逆らえなくなった。「そのくらいのスペイン語ならわかる」とも言えなかった。

どうしてこうなっちゃうんだ? と思いながら「ありがとう、じゃあ行ってくるね★」と手をふると、彼はニコニコしながら「そっち側ですよ」とジェスチャーしている。バスの乗り場で「どこ行くんだ?」と聞いて来たオッサンに、言いつけ通りベルボーイの書いてくれた紙を渡すとオッサン、止まっているバスに乗り込んで「おお、このセニョリータ、ムセオスまでだ、わかったな」。

乗り心地最悪のバスだが、しようがない。乗ってやるか。

一応、「ムセオスで教えてください」と運転手にお願いすると「おお、わかってるゼ」風にうなづいた。グァテマラシティは大都会だから、外人は決して珍しくはないだろうに、乗客までもが「ムセオスはまだ先」「もうちょっと」「あの手前」「あそこ。その歩道橋を渡って左へまっすぐ行けば入り口」とバスの中で教えてくれる。

熱帯の濃い青い空の下、大通りの両脇には花が咲き乱れている。バスはそこを座席の状態などお構いなしですっ飛ばしていく。初心者のapoは座っていても手すりにつかまっていないとずっこける。それを見ていて、また「大丈夫か」と声をかけられる。

電話は途中で切れてしまい、四つ星ホテルにミニ・バーもなく、バスは乗り心地が悪く、人々は貧しい。物価も時差もわからなければ、秩序があるのかないかもわからない。しかもグァテマラでいちばん滞在したくない、ヒト・モノ・ゴミが散乱するグァテマラシティで、かまいたがる人たちの体温か、それともビビッドな空と花と緑の色のせいか、ふと、「ワタシは今、たしかに生きている」と、実感してしまった。その途端、不覚にも涙が出てきた。オイオイ“はじめてのおつかい”でもないだろうに、と自分をたしなめたが止まらない。バスを降りてから人気のない歩道橋の上でワーワー声をあげて泣きじゃくった。

博物館のあと、タクシーで行くはずだったソナ1へも結局バスで行った。ベルボーイに言われた65番じゃないけど、やっぱりバスでソナ・ビバまで戻った。ホテルから博物館は、たぶんタクシーで40〜50ケツァール。バスは1.5ケツァール。その差額は、この灼熱のカオスで生き返った魂へのビールの洗礼として、有意義に使わせていただくことにしよう。

*1:たいそう重厚な、カンノン開きの木製キャビネットに入っている。下にスライドが付いていてベッド側に引っ張り出せるスグレモノ。

*2:国立考古学民俗学博物館(MUSEO NACIONAL DE ARQUEOLOGIA Y ETNOLOGIA)/グァテマラ国内のマヤ遺跡の出土品と遺跡の模型、マヤ文明の変遷を時系列に展示。La Aurora, Zona 13

*3:考古学博物館のあるエリアには、近代美術博物館(MUSEO NACIONAL DE ARTE MODERNO Y PATRONATO DE BELLAS ARTES)、国立自然史博物館(MUSEO NACIONAL DE HISTORIA NATURAL)が隣接している。そのため地名としてこのエリアを指すときは複数形で「ムセオス(museos)」と呼ばれる。