[ _e_x_h_a_l_e_ ]

apo (id:MANGAMEGAMONDO) が妄想を吐き出していきます。

グァテマラ日記(07)

ビクトリアは「ウチはイイ? ウチはイイ?」としつこいくらいに聞いてくる。前に何かイヤなことでもあったのか?

ドンドンドンドン! apo! ……遠くで何か聞こえる……
あのけたたましい音は、ビクトリアか。へ? もう8時10分前じゃん。急いで下へ行き、ホットケーキをくわえて、急いで出かける。

今日のクラスはボキャブラリーじゃないのでよかった。辞書を持っていかなかったからシルビアは一生懸命仕事をしなくてはならず、疲れただろうが、ようやく“スペイン語を習ってる”という実感が湧いてきた。

午後からは、課外授業をパスして、ビクトリアのマードレ*1と妹とともに、ソナ3にあるメルカード・デモクラシア*2で儀式のお買い物。教会に備えるのにも使われるローソクを大きな3束、砂糖2袋、香木2束、天然の着火剤のようなもの1包み、聖水(アロマ・ウォーター)2瓶、コパル(お香)2種類各1包みずつ、大きな板チョコレート3包み、グラスに入ったキャンドル(照明用)2つ、ドライハーブ数種類を一束ずつ。しめて80ケツァール+バス代は決して安くはないが、その真価は明日わかるだろう。明日はスニルという温泉のある村を課外授業で訪ね、帰ってきたら、マードレのサセルドーテ・マヤの儀式だ。

ちなみにローソクの色には意味がある。たとえば、白は純潔、緑は希望、赤は愛、黄色は喜び・子ども、空色は不屈の精神や強さ、黒は敵対・ブルヘリーア(呪い)への対抗といった具合。儀式で、クライアントの何をプロテクションするかによって、ローソクの色は選ばれる。apoはとくにお願いもなかったので任せたら、マードレは赤と黄色と白を選んだ。

「もし、apoが行きたければ、山へも連れて行ってあげる。それはとても聖なる場所よ。もし、お金を送ってくれれば、今日を買ったものを中国*3へ送ってあげる。そしたら中国へだって、精霊は飛んでいって、apoもapoの家族も守ってくれるのよ」

帰ってくると、ビクトリアが夕食の準備をして待っていた。「さあさあ、早く食べて、ニーニョ・デル・サンティシモ*4のパレードが始まるから」。ああ、そういえば今日はお祭り*5があると、夕べから言っていた。「apoも連れて行ってあげる。写真? もちろん、撮ったっていいわ。平気よ」。

準備ができると、小さなアレックスが「小さくなってよう」とapoに訴えてきた。彼とワタシはスペイン語のレベルがいっしょなので、話が通じるのだ。「わかんないよ」と言っても、傷つかないし、ビクトリアが訳してくれるし。そのアレックスは、いつも「もっと大きくなるぅー」と背伸びして、apoに手をつかんで上に持ち上げることを強要するのだ。またその一環かと思ったら、今日は違って、しゃがみこんだワタシに、卵の殻に入った色とりどりの紙片を頭にかけてくれる。そのうち楽しくなってきて、見境がなくなってきたらしい。ビクトリアが「もう十分よ、アレックス。ちょっとでいいの。アレックス! もう終わり!」と止めに入ってくれた。

街の中心部に集結して、ケツァルテナンゴの聖人を祭るコフラディア(信徒会)の会長の家まで手にキャンドルや花火を持って、練り歩いていく。行列の前は女性と子ども。その後ろに男性が続き、夜空には花火があがっている。バラの花びらでダイヤモンドと“創立75周年”と書かれたコフラディア会長宅の玄関を入ると、パティオにはすでに楽隊がいて、音楽を奏でられ、宴の準備がされていた。まず最初に子どもに、そして次に大人たちに、参加者全員に食事と飲み物が振る舞われる。うれしいことにクーバ・リーブレ*6付き(しかもお代わり可)だ。これも富の再配分の一つの形なのだろう。

ビクトリアの知人も、そうでない人も、ワタシにもちゃんと富の再配分が行われるように気を配ってくれる。ワタシの隣のおばあさんなど、自分は飲まないのに、飲み物を配っているセニョーラをわーわー言って呼び寄せ、ラムを要求している。apoのおかわり用にキープしてくれたのだった。少し遠慮してみたが、止めた。apoがここでミョウな気を起こすと、誰もが気分良くタダ飯にありつくことに水を差すことになりかねない。「ここで食べられるのなら、今夜、(apoのために)夕食の準備をしなくてもよかったのに」とビクトリアに言うと「アンタって人はもう」とヒジでつつかれる。

ここでの貧富の差は、日本に比べたら決定的だ。そして富める者は、その富を何らかの形で再配分しなくてはならない。それが掟だ。今夜、その意味がよくわかった。

昨日の夕方、缶ビールを買ってきて「1階にある冷蔵庫を使ってもいい?」とビクトリアに尋ねた。「もちろんランチにビールを飲んでもイイし、冷蔵庫を使ってもイイ」と彼女は答えた。それが何を意味するか。今日、apoは学校帰りに4本買ってきた缶ビールのうち3本を冷蔵庫に入れて、1本開けた。ランチを配膳にやってきたビクトリアが、その足で冷蔵庫へ行くと、2本を取り出して「私も(飲んで)イイ? 妹にもイイ?」と当然のように強奪していった。

結論。もう、あの冷蔵庫は使わないことにしよう。

*1:マードレかママと、apoも呼ぶことにした。

*2:民主主義市場。ケツァルテナンゴで2番目に大きな市場。食料品から衣料品、日用品はもとより、こうした儀式に使う専門の道具を売る店も入っている。

*3:これはマードレに限らないが、“日本”の存在をよくわかっていない。とくに年寄りは中国と完全にいっしょだと思っている。または日本は香港の首都で、東京という別の街があると思っている人もいた。

*4:nino del santicimo/ケツァルテナンゴの聖人。サンティシモはサント(聖人)の最上級

*5:ケツァルテナンゴばかりでなく、グァテマラにはその街の守護聖人がいる。その聖人を崇拝する信徒会をコフラディア(cofradia)というが、その発足75周年を祝うパレードと祝宴が開かれる。コフラディアの会長は、街の有力者、富裕層の持ち回りで、その年に聖人の像をはじめ宗教儀式に使うものを家に預かって祭っている。1年に一度、その行列が街を練り歩く。

*6:cuba libre/キューバ・リーブレ。「キューバの自由」という名の有名なカクテル。キューバの特産であるラムとアメリカの代名詞であるコーラで割る。しかし、これぞホンモノと言えるクーバ・リーブレを飲むなら、ラムはアバナ・クルブHabana Club、コーラはキューバ産のビクトリアVictoria Cokeを使いたい。