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apo (id:MANGAMEGAMONDO) が妄想を吐き出していきます。

グァテマラ日記(09)

「No me gusta problema(面倒はゴメンなのよ)」

朝はシャワーがぬるくて、風邪を引きそうになるのはわかっていたが、このままでは頭がかゆくなる一方なので、勇気を出して下へ降りる。「ブエノス・ディアス。早いわね」ヴィクトリアはちょうど今、シャワーから出たばかりで、これから朝食の支度にかかるところだった。「ちょっと待ってね」と言いながら、浴室の床をきれいにしてくれる。「ロウソクはいらない? 大丈夫?」と甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。次が「シエンタテ!(かけなさい/sientate)」次が「シルバテ!(めしあがれ/sirvate)」。その次が「ムイ・インポルタンテ!(それ、大切/mui importante)」で、最後が「ノ・プロブレマ!(問題ないわ/no problema)」だ。ヴィクトリアとの会話は簡単ですぐ終わる。

震えながら髪を洗い、大至急、布団に潜り込みたいところだったが、「寒いね〜」とできるだけニコヤカにヴィクトリアに話しかけた。「夕べ言ってた75ケツァールだけどね、あれ、学校に払うから、学校にもらってね」。ヴィクトリアはドギマギして何か言おうとしたが「知ってるでしょ? 生徒が直接ファミリアにお金を払うのは禁止されているの」と、腰を折らせずに、つっかからずに一気に話せた。「あれは母が母が」とか「払ってって言ってない」とか「話し合いが必要だ」とか言ってるけど、「寒いから」と言ってとっとと上がってしまう。「これにお金がかかるって知らなかったし」まで言う必要はなかったかもしれない。部屋でフォローに行くべきか行かざるべきかちょっと悩んだが、こういうところで追いかけるから、ナメられちゃうんだ、と過去の恋愛における教訓を持ち出して、7時30分の朝食まで待つ。

(推定)中国人がニセ札を使うなら、apoはコネを使う。彼女の生活を直撃するコネを。ファミリアはたしかに小さな洋品店を営んではいるけれど、とても売り上げがあるようには思えない。男手はヴィクトリアの夫だけらしい。彼は大工で、今はケツァルテナンゴを離れて、グァテマラ・シティに仕事に行っているという(ホントなら)。妹、母親、ほとんどしゃべれない叔母、そして息子を養わなくてはならないヴィクトリアにとって、“学校”は重要な収入源だ。

「私は3つの学校と契約しているのよ、問題があるのは困るの」
「学校には何も言わなくてもいいし、払わなくていいのよ。あ、宿代と食費は払ってね」
「75ケツァールなんて聞いてないわ。apoがあれを知るのは必要なこと、ムイ・インポルタンテ」
「今朝、初めて知ったのよ。私たち、きっともっと話し合いが必要だわ。OK? ノ・プロブレマ。ね?」

ヴィクトリアの決まり文句に、今朝、新たに一つが加わった。「ノ・メ・グスタ・プロブレマ(No me gusta problema/面倒はゴメンなのよ)」

昼食に戻ったときもマードレの姿は見えなかった。ヴィクトリアに「マードレは大丈夫?」と尋ねると「ノ・プロブレマ。75ケツァールのことは忘れて。いいわね?」

もちろん、忘れよう。