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apo (id:MANGAMEGAMONDO) が妄想を吐き出していきます。

グァテマラ日記(11)

マルヴィンに「レストランを紹介して」と頼んだのは間違いだった。

グァテマラ第二の都市ケツァルテナンゴと言えども、日曜日は休むレストランが多い。土日もファミリアでは食事がつくから、通常は必要がない。けれどもう少しの自由行動ともう少しの静かでロマンティックな夜を楽しみたかったapoは、シェラをうろついていたのだ。そこで、ばったり生徒の男の子と会って立ち話してたらマルヴィンに会った。学校では先生だけれども、フツーの男の子であるマルヴィンは、ファーストフードに毛の生えたようなファミレス(ただしグァテマラ料理のメニューもある)を紹介してくれた。夕べのマヤ・インが出来すぎだからしかたがない。夢の続きを見たければ、カードを持って、真っ白なテーブルクロスのかかったホテル・ボニファスのレストランへ行けばよかったかもしれない。たぶん。

そう、夕べのシャンパン(スパークリングワインだけど、ここではシャンパンと言う)だ。あれが、何かを変えたのかもしれない。シャンパンを頼んだとき、持ってきてくれたのがミゲルだったら、こんな話にはなってなかったはずだ。でも、持ってきてくれたのは、バーでapoを嫌ってると思ってたフアンだった。それですぐ「マジなサセルドーテ・マヤに会いたい」と尋ねた。ミゲルにも当然ながら尋ねた。けれど、サセル…と言いかけたところで、ミゲルは「では、おやすみなさいませ」と踵を返して部屋から出ていってしまったのだ。

「あなたが会いたいのはどんなサセルドーテ・マヤか?」とフアンは英語で尋ねた。それはこんなふうになる人か?と言って「ウウッ〜」っとこわばってみせた。それならば、と続けて「私もサセルドーテだ。もしも、あなたが望むなら、パナハッチェルの私の師と会わせてあげよう」。

まさしく、これだ、と直観した。学校が終わったら、すぐにパナハッチェルへ行こう。尋ねる人を間違えると、間違った道へ行ってしまう。

今日、チェックアウトしたあと、フアンのいるバーへ行き、ほかの従業員が席を外したところで待ち合わせの日付と場所を確認する。

レストラン・カサ・ブランカ パナハッチェル
12:00〜13:00 2月17日火曜日

「もし、あなたの気が変わったり、忘れちゃったとしても、気にしなくてもいい。しばらく師を訪ねていないし、私は妻を連れてパナハッチェルに行くのが好きだから」
「あなたに、いくら払えばいいのかしら?」
「そんなのいらない」
「でも、それじゃあ……」
「では、ランチをご馳走してください。それでいいです」
フアンはapoが1泊80ドルのホテルに一人で泊まり、ワインとシャンパンを頼んでいることを、それを払えるお金があることを知っている。知っているのに、だ。

そんなわけで、ガジョ×2本を飲んで、シェラに戻るバスに乗った。「アルコ(アーチ)、わかりますね。直通はないかもしれないけど、グァテ行きはたくさんあります。それに乗って、ロス・エンクェントロスで乗り換えるんです。じゃあ、パナハッチェルで!」

素晴らしきバス野郎たち

言われたとおり、トイレに行ってからバス乗り場に向かう。グァテ行きのバスはすぐ来て、それに乗る。もう1本分、未消化のビールがあるけど、それはチチから2時間くらいのロス・エンクェントロスで排出すればいいや、と思って。

ところがここでまた間違った運命の扉を開いてしまった。ロス・エンクェントロスに着いた途端、「Xela, Xela!!」と超カッコエエお兄ちゃんが叫んでいるではないか*1。これを逃してはいけないと直観した。乗らずにはいられないではないか、トイレに行こうと思ってたのにどうする、apo?

apoはお兄ちゃんの素敵な横顔を眺めるという道を選んだ。もしヤバくなったら、途中のクワトロ・カミーノスで降りちゃおうと思って。apoの膀胱ちゃんは予定どおりにビール1本分を溜めて腫れてきた。ロス・エンクェントロスでご親切にも「ここに席があるわよ」と手招きしてくださった隣のセニョーラに「クワトロ・カミーノスって次かしら?」と聞いたら、「まだよ。ん? でもアンタ、どこ行くの?」とセニョーラはいぶかしげにそう尋ねる。当然ながら、シェラでスペイン語習ってるんです、という一通りの身の上話はしていたのに、クワトロ・カミーノスに何の用があるの?というカンジで。「ええ、行くのはシェラなんですが……、でも、その前にトイレにも行きたいんです」「じゃあ、彼に言いなさいよっ!」と極めて妥当な結論を下すセニョーラ。

ええっーーーーーーー!! 乙女にそんなこと言えないよー!!! バス降ろされちゃうのも、乗り換えるのもいいけど、カッコイイんだよ、このお兄ちゃん。だけど、我が哀れな膀胱ちゃんは、すでにデマシアード(限界)だった。そんなとき、このお兄ちゃんが何の用だか知らないが、後ろの席へ進んでいく。うーむ。言うべきか、言わざるべきか。お兄ちゃんがまた前方へ戻ってくるとき、隣のセニョーラが無責任にヒジで小突く。やめろよバカっ、漏れるだろうがっ!

それでもやはり乙女的に言えないapoはしかたなく、彼を見つめてみた。「ん?」という顔で、見つめ返されたので「トイレに……行きたい……ンです」と囁いた。そしたら彼はさらに「ん?」と、そのハンサムな顔をぐーっとズーム・インさせて「Como?」きゃあ!! やめろよバカっ、漏れるだろうがっ! もうっ!

「トイレに生きたインです」隣のセニョーラとその隣のセニョールは無責任に笑っている。でもお兄ちゃんは、紳士的にうんうんとうなづいて「ちょっと待ってね」と答えると、すべるように前に行き、運ちゃんに何か言った。しばらくすると、振り返って手招きして、「じゃあここで、あっち側に行っておいで」とバスを止めてくれた。「荷物はいいよ、待ってるから」。ああ、apoはグァテマラに来てまで、バスを止めてしまった*2

開放快感の半ばでバスのクラクション。下っ腹の腹筋を通常の200%の力を入れて、すべてを出し切り、走ってバスに戻る。お客様、全員笑顔。そして何より、お兄ちゃんがさっきよりニコヤカなのは気のせいだろうか?

もう後ろの席に戻れなくなって(いや、戻れるんだろうけど、戻らなかった)、お兄ちゃんの後ろに立っていて手すりにつかまっていたら、そこに寄りかかってるお兄ちゃんにふれてしまったので「スミマセン」と言ったら(だって、手洗ってないし)、微笑みながら「いいよ」と首をふる。あああーーーー、なんて素敵な笑顔なの! ホントにもうっ。パラ・ジェバール(お持ち帰り)してーよう!! 

メキシコではミュージアム学芸員、フランスではレストランのギャルソン。グァテマラでは、なんてったってバスの男だ。「オレに何でもまかせろ、オマエのすべてを受け止めてやる」ってカンジの手招き、「ア・ドンデー(どこまで)!!」って声のかけ方、「次はどこどこ。降りる人、前にいらっしゃい!!」って呼び方、すれ違う仲間のバスと手でする合図。あー、全部ステキだ。結婚したい。あるいは輸入したい。

でも、この人たち、バスを離れてしまったら、カッコよくないし、この人たちと結婚しても、バスタブ付きのお家はないんだよね。バスという保護区でこそ、彼はいちばん輝くのだ。「○○で教えてください」とお願いしたときの、あなたの「バレ!(了解)」。なんてなんて素敵な。忘れない。

そうだ、apo、明日からダンス習うんだ。次のバスではお持ち帰りできるかしら?

*1:グァテのファーストクラスはハイデッカーのバスだが、中長距離を走っている2等バスは、アメリカのスクールバスのお下がりでどうもバスも自分の持ち物らしく、きらびやかに装飾してある。日本でいえばトラック野郎ってカンジか。これを運転手と車掌的な仕事をするその助手とたいてい二人でコンビを組んで営業している。料金集めのほかにも助手の仕事は多い。乗換のバス停だけでなく、道に立ってる人にも呼び込みをし、客の大荷物をバスの屋根にあげたり、これ以上乗れないというとき詰め込んだりするのも彼の役目。バス停じゃないところで「あそこが家だから」と降ろしてもらうときも彼に頼む

*2:かつてユーミンの「恋人がサンタクロース」が流行っている頃、アタクシはスキーバスを同じような状況で何度も止めたことがある