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apo (id:MANGAMEGAMONDO) が妄想を吐き出していきます。

グァテマラ日記(13)

ここに来たのは間違いではなかった。ただ、だんだん慣れてきたせいか、apoの要求は日ごとに大きくなってきた。「〜へ行きたい」「〜を見たい」という欲求は留まることを知らない。日本にいるときと違い、毎日、学校へ行き、復習し、午後は学校の課外授業に参加して、さらに夜はダンス・レッスンに通う。ここに排気ガスがもっと少なかったら住んでもいいくらいだ。にもかかわらず、十分ではないらしい。今日は、ロンリープラネットで読んだ、モモステナンゴのサセルドーテ・マヤのワークショップにも参加してみたくなった。

時間が足りない。apoがお世話になってるファミリア、ラミレス一家にお金が足りないのと同じか、それ以上に。

ヴィクトリアはソナ7(Zona7/7区)の歯医者に面接に行ったけど、残念ながら採用は見送られたらしい。それを包み隠さず言ってしまうのがヴィクトリアの純情さで無知なところなのだが、apoたち相手にこぼしまくる。半分はこちらから水を向けたのだけれど。なんでそんな悪趣味なことをしたかといえば、現状確認みたいなものだ。現実的なサポートを得る可能性が高い友だちはでなく、わざわざここに地縁のない生徒に話す理由だって、もちろんある。

子どもにはお金がかかる、ミルク代が高い、医者にも行かなくちゃならない、そのためにはお金がいる、だから生徒がいる、今日はまた新しい生徒が来るので、5時起きだった、だからちょっと疲れた……。そんな話にすっかり同情してしまった、今週からここに来たアメリカ人のエドは「何か手伝いましょうか?」とか言ってる。おいおい、オマエがそんなこと言ったら、apoまでやらなくちゃならなくなるじゃあないか。(笑)

たしかにアレックスは可愛いし、ヴィクトリアはじめ家族はみなイイ人だ。だが、食事のレベルは確実に落ちているだけでなく、例の冷蔵庫に入れたビールのように、自分のテリトリーに入ってきたものは自分のプロパティという思想は、気のせいではないようだ。合衆国のヒスパニック系、メキシコ、中南米で言われる「Mi casa, su/tu casa(我が家と思っておくつろぎください/俺ン家はお前ン家)」とは、つまり「情けは人のためならず」なのだと思う。それの、もっとラテン的な形の表現方法。耳障りはいいけど、本音をあからさまにするところは日本人として好ましくは感じられない。ホントに恥も外聞もないんだな、と思う。

学校の前にオフィスのある旅行代理店があるツアーを説明してくれたとき「このコーヒー・プランテーションの周辺の村を訪ねたら、“リアル・グァテマラン・ライフ”にショックを受けますよ。彼らはあなたの想像を絶するほど、貧しい」と言った。だけどapoはラミレス家で十分すぎるほど、タカリ体質にショックを受けている。これが初めてのグァテマラではないのに、だ。

たしかにお酒を買えない人の前で飲むのは、悪いことかもしれない。彼らにしてみれば、これ見よがしなのかもしれない。でも、apoは自分の生活をし、ときには騙されもする。かといって、タカリもしない。それを当然だとも思わない。apoは学校を通じて、この家族にお金を払っている。受けてしかるべきサービスを、対価として求めて何がいけないのだろう? そう考えずにいられないのは、さほどではないにせよ、彼らよりも確実に持っている自分に対する罪悪感で、これがどうしようもないのだ。確認しているのはこれなのだ。

昨日も今日も、たぶん明日も明後日も、ヴィクトリアは何度も「シエンタテ(座って)」「シルバテ(召し上がれ)」をくり返すだろう。それがウザい。「私の家でハッピー?」と何度聞いたら彼女は気が済むのだろう?

土日はモモステナンゴに行きたいな、とエドとおしゃべりしてたら、案の定、ヴィクトリアが「それじゃあ、いつ中華料理*1を作るの?」と口を挟んできた。もちろん、買い出しに行けばapoがすべてを払うことになるだろう。けれど、apoには食材を買う義理はない。一食浮かせて、肉を食べようという一石二鳥の魂胆が、あまりにもあからさまで、うんざりする。ただし、彼らにとってそれが誰からの贈り物であれ、肉を食べられる機会とは、ホントに貴重だ。apoたちは頼んでもいないのに、ずっとベジタリアン・メニューが提供されている*2

ラミレス家のお金同様に、apoには時間がない。誰にもタカれないし、仮に与えてくれるという誰かがいてももらえない。

*1:偉大なる華僑のおかげで、グァテマラにも中華料理は根づいている。ことにチャオミェン(焼きそば)は大人気だ。そのため着いた当日「中華料理を作れる?」という話になり、これでツカミはOKと思ったapoは「もちろん」と胸を張り、「サルサ・デ・ソヤ(醤油)を買えるところはある?」とかキッチンの鍋を見たりとかで盛り上がった

*2:ほとんど学校で、こういった趣味・嗜好に関して事前インタビューがある。ベジタリアンにはベジタリアン・メニュー、宗教上の理由である種の肉が食べられない場合はその注意、あるいは好き嫌いも。だいたいの目安として、週に1回学校の運営者側とのインタビューがあり、現状のファミリアで満足か、問題ないかが聞かれる。ここで希望を言えば、ファミリアの変更も可能だ。apoは日記に食事の不満を書いているが、それでも幸せだった。まずラミレス家は、家族全員が信用できた。清潔で静かで鍵のかかる個室には、机もあり、広さも十分にあった。あるクラスメートはノミに喰われてお腹から背中までブツブツだらけになってたし、ベッドの隙間もないところに詰め込まれた白人男性3人組もいる。またケツァルテナンゴでは聞かなかった(だけかもしれない)が、ほかの地域ではファミリアに貴重品を盗まれるというケースも少なくはない