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apo (id:MANGAMEGAMONDO) が妄想を吐き出していきます。

グァテマラ日記(15)

明日のために、もう寝よう。

としか、この日の日記に書いてない。シルビアとゆかいな仲間たちと遅くまで飲みすぎたのだ。最初は、ガイジンが集まるブルー・アンヘル・カフェで。値段も手頃だし、あと英語の字幕スーパーがついた映画(ビデオ)上映があって、英語の古本を売ってたりするのでガイジンがタムロしている。じゃあ、なんでグァテマラ人たちとここに来たかというと、仲間の一人がここの娘だからだ。そしたらシルビア、サキリバル(インディヘナの言葉で「白い灯」の意味)、グスタヴォ、クラウディア、ダシアと、ここで働いているスペイン語の先生の総勢6人がapoのスペイン語の先生状態だ。「エル・ディホ・メ(彼、ワタシを言った)」なんてうっかり言おうものなら、口をそろえて「メ・ディホ!(ワタシ“に”言った)」と添削される。いや、むしろ集団調教に近い。あひゃひゃひゃ。

軽く食事も済んで、じゃあもうちょっと強い酒でも飲みに行きましょうか? ということで、学校入っているビルのバールへ行く。そこで大スラング講座が始まるのだか、残念ながらこのとき書いたメモが行方不明だ。せっかく「アイツ、飲み過ぎてトイレに行き過ぎ(フィルターの先っぽまで濡れてるよ)」とか「(お代わり)飲むの?飲まないの?」とかそういうの、いっぱい聞いたのに。

さらにここで、ダンス教室のノラ先生にもばったり会う。彼女は厳しい先生だ。2日前「レボルシオン(革命)」というステップを習っていたとき、どうしてもできなくてapoの担当のヨハナ先生が、ノラ先生に「ちょっと見ててくれない?」と頼んだ。ビューと太く黒々としたアイラインで縁取られたノラ先生の目に監視されたら、あれほどできなかった「レボルシオン」が、なんと成功してしまう。「なーんだ、できてるじゃない」ととっとと離れていくノラ先生の背中を見送りながら、「どうして、できちゃったんでしょう?」とapoとヨハナ先生は二人で頭を抱え込む。きっと革命成功の陰には魔力が必要なんだ。ノラ先生のにらみみたいな。ノラ先生はけして女っぽいタイプではない(ダンスはセクシーだけど)。ときどき「apoっ!」と鋭く名前を呼ぶ。「ひぃっ」と返事をすると、「apo、手は体につけておくの。こうよ、そう振り回さないで。そのほうがずっとエレガントに見えるから」とナイスなアドバイスをしてくださる。でも、困ったことにそばにいるだけで、固まってしまう。

シルビアはノラもヨハナも「知ってるわ〜。でも、あの人たち、好きじゃないわ〜」と言う。「だってノラなんて、前、ブルー・アンヘルの近くの路上で、男の人、ひっぱたいてたのよ。ちょっと考えられないわ。それに、あのダンス教室の女たちって、みんなガイジンとつきあってるのよ、好きみたいね、そーゆーのが」。

シェラはガイジンが多い。スペイン語学校にしろ、ホテルにしろ、観光会社にしろ、民芸品にしろ、ガイジンで潤ってるところも少なくない。また女性・人権・環境・教育・医療など、ほとんどのボランティア活動にはガイジンが携わっている。でも、ある朝、広場近くの路上にチョークで「グァテマラから搾取するガイジンどもよ、出て行け!!」と、いくつもいくつも大書きされていたことがある。この街を走る車の8割は日本車だ。だけど日本の基準を満たしている車なんか走っていないだろう。加えてディーゼル車も多い。おかげで、この街はかつてのメキシコシティのように空気が悪く、喘息持ちも増えている。助けてもらっても、豊かさに憧れても、100%受け入れがたいとか、コンプレックスに気づかされる。そんなジレンマがここにはある。「一部だけど」と前置きしてシルビアは言う。「ガイジン嫌いっていう、アブナイ人たちもいるのよ。だから気をつけてね」。

時間と無関係に人間が増えてくると、今度はシルビアの元カレが現れた。つい先日の授業で元カレとの問題を語り合ったばかりだったし、仲間は全員そのスキャンダルを知っていたので、今度はシルビアが緊張する番だ。「アレが車に連れ込もうとした男か?」「ちょっと、みんな、あんまりそっち見ないでよっ!!」「そもそもなんで約束なんかしたのよ?」「だから、そっち見ないでよ!!」「やり直す気ないんでしょ?」「ちょっと、立ち上がらないでよ。apoはタダでさえ目立つのよ。アタシがここにいるってわかっちゃうでしょっ!!」。壊れたシルビア、ラムのストレートのお代わりが増えていく。

楽しく混乱していたら、11時半頃、外で銃声が響いた。また違った感じで騒然となる。さっそくグスタヴォが状況視察に行く。これは男の仕事、と相場が決まっているのでデバガメ根性をむき出しにしたら、制止される。何かしら何かしらとさえずる女たちのところに戻ってきたグスタヴォは一言「どっかのバカだった」。「どんなバカよ?」「ヤクが切れたらしー」「あー(全員)」。みなさん、ここ納得するとこなんですか。まあ、バカはお巡りさんに取り押さえられたらしいけど。このあと、みんなでタクシーを割り勘にして帰った。ここで、ささやかな抵抗を試みる。先に降りたapoは約束を破って、タクシー代を全部払い、案の定、文句を言われた。だけど、やりたくなっちゃったもんはしょうがない。今夜の飲み代は全部グァテマラ人たちのおごりだったから。