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apo (id:MANGAMEGAMONDO) が妄想を吐き出していきます。

グァテマラ日記(19)

夕べ、ご飯を食べながら日記を書いて、ホテルの前の酒屋でビール買って、今日は大人しくしとこ、と思ってたのに、シェラのスペイン語学校でいっしょだったジュディたちとバッタリ会ってしまい、そのまま飲む。いっしょにいた男性はてっきり彼女らの連れかと思ったら、その場であったスイス在住のグァテマラ人で、しかもapoと同じホテルの隣の部屋! すっかり仲良くなって手をつないで帰ってきたものだから、レセプションの夜番男はデキてると思ったらしい。まあ、ムリもない。早朝7時に、交代前の彼に「夕べはどうだった?」と遠慮ゼロのインタビュー。何にもないよ、といってもまず信じてもらえるハズはないので「そりゃあ、もう(Vサイン)」と答え、颯爽と朝ご飯&湖畔への散歩へ。

サンティアゴ・アティトランのマシモン

フアンとの約束は12時〜13時なので、ランチャ(船)で対岸のサンティアゴ・アティトラン*1へ。「どのくらいかかるの?」と尋ねたら船着き場のオヤジは「15分」と言い、『ロンリープラネット』には「20分」とあり、『地球の歩き方』では「1時間」と書いてあった。

結論:グァテマラ人に時間を聞くのはまちがい。

正しかったのは『地球の歩き方』だった。往復チケットを買ったapoの失敗*2。帰ってこようとしたら、もう、あと30分しかないじゃないか。でも、ともかくマシモン*3は見よう。

サンティアゴ・アティトランに着くと途端に「マシモン!マシモン!」と子どもたちがハエのように寄ってくる。道を教えてやるから1ケツァールくれ、5ケツァールくれ、10ケツァールくれ(金額は客の顔を見てフレキシブルに変更)というわけだ。ただし、教会まであがって大人に聞けば、どなたでも親切に教えてくださる。スペイン語学校の秘書のニコラは「パナは物売りがウザい」と言っていたが、ここはパナ以上だ。ハエのような子どもたちに加えて、大人の物売りまでたかってくる。

くっついてきたガキ×2に「2人で1ケツァールならいいよ」と言ったら、相談しているので、「時間がないから、行くね」と先を急いだ。物売りでない大人に道を尋ねながら進んでいると、後ろから追っかけてきたガキ×2が別の方向へ誘導するので「ウソ吐いたから、もう君らダメ。アディオス!」と言ったら、石投げてきやがった。ふてーガキだ(笑)。しかし、どうしても未練(apoに、ではなく金に)があるらしく、結局、マシモンの家までやってきて、「玄関はこっちだ」とapoに教えたり、大人に取り次いだりしてる。遅いのだよ、あそこでウソさえ教えなければ、お金あげたのに。カワイソウに正攻法で稼ぐ術を知らないのだ。

中に入ると、ちょうど儀式の最中だった。床にはローソクがたくさん立てられ、コパルを焚く缶をサセルドーテが振り回しながら、祈りを唱えている。声かけるのもどうかと思い、手振りで入ってイイ?と聞くと、長老のような方が「お入り」みたいにしてくれる。入場2ケツァール、写真2枚で10ケツァールだった。20ケツァール札を出すと、ちゃんとお釣りをくれた。うれしい。

ここのマシモンはスニルのサン・シモンと違い、老人だ。顔には、シワが深く刻まれている。驚いたことにラディーノでもない。装束も顔も、インディヘナの木像だ。apo以外に来た観光客か、地元の人かは知らないが、備えられたお金が衿飾りのように飾られている。apoへのお釣りも、ここから10ケツァール札をとって、渡してくれたのだ。口にはちゃんと穴があいていて、儀式の途中、幾度か、そこにいる男たちが体を支えてマシモンをナナメにして、ケツァルテカ(強いスピリッツ)をその口に注いでいた。煙草をあげたいと言ったら、火をつけて、その同じ口にくわえさせてくれた。儀式の写真を撮ってもいい?と長老に尋ねたら「OK」とおっしゃったので、撮らせてもらってから、しばらくそこで見ていた。このクライアント(男性1名)の何を祈っているのかわからないが、彼は真剣だ。

ここで吸い込まれそうになったけれど、apoにはフアンと会う、という本日最大のミッションがある。カサブランカへ。パナへ帰るため港への道を駆け降りる。

奥ゆかしいグァテマラ人

ランチャが着いて、そこにいたタクシーに「カサブランカにやって!」と乗り込んだら、別のところで降ろされてしまう。こいつ、知らねーなら言えよ(よくあること。確かめないほうが悪い)。でもそこに別のタクシーが来てくれたので、今度こそカサブランカへ。13:20。中に、フアンはいない。

ああ、遅かったか、と思ってカサブランカを出たら、そこにフアンがいた!

フアンは相変わらず、イイ人で奥ゆかしい。カサブランカで会って、ランチをおごります、という約束をしているのにレストランへ行こうと言わないでいる。apoはフィルムが足りなくなったので、ホテルに一旦戻ってきたいんだけど、どっかで待っててくれますか?と聞いても、ここで待ってる、という。「お腹は空いてませんか?」と聞いているにもかかわらず、だ。で、戻ってくると、突然、英語が下手になり、スペイン語混じりでやっとこさ「じゃあ、お昼に行きましょうか?」と言い出す。

apoはお金持ちなのよ、もっとボリなさい、と思った。でも、彼はクレクレタコラのグァテマラ人ではない。彼はapoがマヤ・インに泊まったことも、そこが一泊いくらなのかも知っている。極上のカモじゃないか? でもapoについてアナに話すことと言えば「彼女は酒が強いンだ。白ワイン1本飲んで、そのあとシャンパン1本飲んだ」とか「翌日には空だったよ」とか「私は1杯で目が回った」とかだ。(笑)

「この人はダメなのよー。ビールは女同士で楽しみましょー」と、アティトラン湖の名物料理ブラックバスでガジョ(ビール)る女たち。フアンはコーラで乾杯する。フアンの62歳というのがホントかウソかわからないけど、奥さんのアナは36歳で、二人には12歳の娘がいる。若い妻をもらってりゃ、ほかの男が近寄ってくるのを嫌うのも当然だが、それをアナは「だからうるさくてねー」と笑う。しかも魚は苦手でチキン食べてることまでネタにされてるフアン、完全に女どものエジキだ。お家でもこんなカンジらしく、ネタにされて目を細めてる。

……と、こんな夫婦だけど、この夫婦、二人ともサセルドーテ・マヤなのだ。今日、マシモンを見に行っていたの、と話したら、「じゃあ今度、来たら、うちにも寄ってー。うちにもサン・シモンがあるのよー」とアナ。彼女は、あるとき突然、夢を見たり、何か違うものが見えるようになったのがきっかけでサセルドーテになったそうだ(フアンには聞くのを忘れた)。

食後、やっぱりビールをやりながら一服していたら「apoは煙草を吸うけど、私の師はプーロ(葉巻)を吸うのです」とフアンが言う。「師のとこで、プーロを吸いますか?」

プーロとプロテクション

ラビリンスのような裏道を通ってフアンの師、セニョーラ・ロドリゲスの家へ。「私の師(ミ・マエストロ)」と聞いていたから、てっきり老女を想像していたら(それもシャーマンだし)、待っていたのは予想外に若い女性だった。

アナによれば、セニョーラ・ロドリゲスは42歳で子どもが5人いるという。だけど、とても42歳には見えない。20代といっても通用すると思う。子どもを連れていたら(これが全員デカくて、成人してるのもいる)兄弟と思われるかもしれない。しかも声まで可愛らしいし。apoは初めて実年齢より若く見えるグァテマラ人に会った。

彼女がサセルドーテになったのは、17歳のときで、当時、重い病気を患ったのがきっかけだ。それは誰かのブルヘリーア(呪い)だったが、そのとき、どうやって神とコンタクトするのかを知ったという。

トトニカパンで会ったイザヤもエドも「これは“習慣(costumbre)”であって、神こそスーペリオールだ」と言っていたけど、セニョーラ・ロドリゲスもそう言うのだ。だからこそ“神”とコンタクトするのだ、と。「守護を求める内容によって、力を借りる対象は違います。だけど、神はスーペリオールですから」。そんな信心深い彼らは、ほかの国や文化、宗教の神や聖なる存在も敬うし、大好きだ。セニョーラ・ロドリゲスの祭壇には、キリストもあればサン・シモンはもちろん、マヤの神もいる。どこから来たのか仏陀やなぜか狛犬まで。

彼女は英語を話さないから、私が通訳しようとフアンが申し出てくれたけど、まったくその必要がなかった。神懸かりの人、というとエキセントリックな人を想像すると思うけど、彼女は違う。むしろ語り口がゆっくりで、apoの「なぜ?」の連発に非常にわかりやすく答えてくれる。しかも誰に対しても、よりていねいな「あなた(usted/三人称)」で話す。そして大切な質問になればなるほど、声のトーンが下がっていく。

「わたしに何か問題はありますか? ありませんか?」と尋ねた。フアンが書いたapoの名前を書いた紙を見つめながら、プーロを吸い、指を鳴らす。これがこの人のトランス状態に入るきっかけなのだろう。

「家族のことをとても考えているわね」
「紙がいっぱいあるわ」
「帰ったら仕事がいっぱい待ってるわ」
「何か忘れ物をしなかった? 今は問題ないけど」
「元カレはあなたと別れてずいぶん泣いたわ」
「ご両親は木がいっぱいある農園に住んでいるわね」*4
「ん……。お母さまは……。」

彼女の言葉が止まり、怪訝そうに「お母さまの年齢はいくつ?」と聞かれた。母は昨年亡くなりました、と答えた。

「プロテクション*5、してみる?」

本当は、マヤ文明の宇宙観とかを聞きたかったのだけど、それにはapoのスペイン語も足らない、ってことがわかった。たぶん彼女もそういう理論家ではなかった。けれど、マヤが古代文明などでは決してなく、現代におけるライブの文明であることがわかって、それも心と体で感じられたことは収穫だった。今、目の前にいる彼女が、マジモノのシャーマンなら、その儀式を、見たいと思った。

「お願いします」

値段がわからなくて、ちょっとまごついたけど。こっそりアナをヒジでつついて「ねえ、いくらくらい?」と聞いたら「200……ドル!」と言われ「冗談よ、ケツァールよ、ケツァール。たぶんね」とからかわれる。コイツめ、なんとタイムリーな冗談だろう。

一般に儀式と言われる、セニョーラ・ロドリゲスのプロテクションは、ローソクと卵、コパルに、そしてプーロが加わる。その最中に自分でも次々とプーロを吸い、プロテクションの効果を確かめているようだ。火にくべられた卵が大きな音を立てて爆発するたびに、フアンが「ブエン・スウェルテ(幸運だ)!」と声をかけてくれる。セニョーラも汗をかきながら「イイカンジ!」とプーロの燃え方を見ながら、満足そうに目を細め「大丈夫、次の愛が2〜3年で見つかるから」。

そのあと「これからコンセントレーションをするから」とフアンにうながされて、元の祭壇のある部屋へ戻る。まず、フアンの体に誰かが入った。それにみんなが挨拶する。観てない人に説明するのは難しいけど、10円玉じゃなくて人間の体を使うコックリさんみたいなものを想像してほしい。彼の中に入った誰かが「日本から来た姉妹に幸せがある……」のようなことを言うと、「ヒュッ」とフアンの息の音を立てて、フアンから出ていった。セニョーラには別の誰かが二人入った。やはり同様のことを言って去っていく。

彼女は忙しい。apoの次には、夫婦関係に問題のあるクライアントが待っていた。その人のために、赤と黒ローソクとプーロでプロテクション用の松明を作り、弟子たちのプーロでの予知の仕方にアドバイスをする。そのときいた弟子は彼女の娘を含めて5人。プーロで運命を読んでいる人は足の間にバケツを置いて、時折、黒いヤニを吐いている。

フアンとアナが「じゃあ、そろそろ行きます」と暇乞いをすると「あなたの次の訪問を待っているわ」と声をかけてくれる。

シェラのラミレス家のマードレのときもそうだったが、異様に疲れた。これからチチカステナンゴまで帰るフアンとアナとバス停まで行き「次に来たら必ずうちに来てね」とかバスが来るまで話をして別れたあと、どっかでビールでも、と思いながら、結局、アティトラン湖まで来てしまった。夕暮れを見ながら、ため息を吐く。

サセルドーテ・マヤとは何者なのかというと、たぶん、魂の医者か薬剤師なのだと思う。ここ、グァテマラには彼らを頼る人がまだたくさんいるのだ。パナハッチェルに来て、よかった。チチカステナンゴへ行って、よかった。心からそう思う。

*1:アティトラン湖畔では大きいツトゥヒル(Tz'utuhil)族の村。1990年には軍の狼藉者が村民13名を射殺した事件が起こった。船着き場から村の中心の教会に続く道は民芸品や織物、ギャラリーが並んでいる。庭先で機織りしている女性の姿も見られる。ただし、グァテマラ人に言わせると「パナはステキ。だけど、サンティアゴ・アティトランにわざわざ行く理由なんてある?」だそうだ。

*2:ランチャは、往復割引とかそういう気が利いたモンはないし、会社によって時間もバラバラなので、片道ずつ買うのが賢い。少なくともサンティアゴ・アティトランとパナの間は1時間おきくらいにある。また、湖畔の村々をめぐるクルーズもあるけど、これも交渉すれば、途中からでも乗れる。

*3:Maximon。サン・シモンと同じ→2/5参照。

*4:実際にはもっと言われたことはたくさんある。的中率としてはだいたい80%くらいだろうか。リアルのapoをご存じの方なら、何となく納得していただけれると思う。当然ながら、apoは彼女はおろか、フアン、アナにも自分の仕事のことも家族構成も、誕生日すら話していない。彼女が知っている情報は、フアンが紙に書いたapoの名前だけだ。

*5:なぜかはわからないが、彼女の場合「儀式(セレモニー)」とは言わない。