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apo (id:MANGAMEGAMONDO) が妄想を吐き出していきます。

よくわからない

正直なところ「またか」と思った。

この商売だけじゃないと思うけど、アタクシの年代でウツになるとか、病気になって中断を余儀なくされるフリーの人が近頃、多い。そんな気がする。「○○さんも、今、長期療養中でね」。アタクシと同い年で管理職の彼は、同い年の話しやすさか、あけっぴろげな性格からか、はたまた不倫相手を当てちゃって「隠し事ができない」と思ってるせいか、そんなにしょっちゅう会わないアタクシを見れば事情聴取してから窮状を告白する。先日は、2つばかり年下の彼の部下がクモ膜下出血で倒れたばかりだ。「あなたは大丈夫なの?」「ええ、アタクシはおかげさまで」「そう、ならいいけど」。そんな話のあと、健康面に問題を抱えているのは、倒れた部下だけでなくて、実は○○さんもなんだ……、としゃべり始めた。

突き詰めてモノを考えちゃうタイプなんだそうだ。ほかの人が思い浮かばないような深い読みをする人なんだそうだ。なんだけれども、そんな人柄のせいか、校了時に発覚したちょっとした問題がトリガーになってパニクってしまったのだ、という。

アタクシは話を聞きながら、心の中で彼女のパニックに陥る心境をトレースしていた。このカンジ、すごくわかる。たとえはすごく幼稚だけれど、ちょっとお腹が痛いだけで「もしかしてガンじゃないだろうか?」と怯えるのとよく似ている。

小さな問題だからこそ「それが致命傷になったら取り返しがつかない」と、思い込んでしまう。そんなとき、「それくらいヘッチャラよ」と言える人にはわからないだろう。否、言えるタイプでもわかる、そういうふうに笑い飛ばせない弱点を自覚している人ならば。パニックを引き起こしたときは、そんな理解者が必要だ。それと、弱点を自覚しておくこと。こっちのほうが大切かもしれない。なぜなら自分のキャパはこれだけです、と正直に申告するのは自分の美学を守るだけじゃなくて、相手への誠意でもあるからだ。

「SOSはできるだけ早く発してくださいね。手遅れになったら、救えるものも救えないから」

いっしょに組んで仕事をしたとき、彼はそう言った。念のため書いておくけど、これはロマンティックな感情とはまったく異なる性格のものだ。彼には彼の、取らざるを得ない責任がある。それは、組織に対してとか、ユーザーに対してとか、利益に対して、であって、アタクシに対してではない。「わかりました」と答えたと同時に、アタクシにも担当者の彼に対してのみならず、責任を果たす対象が発生する。つまり、フリーは引き受けた時点から、勝手に死んだり、勝手に不健康になったりしてはいけない。少なくともそんなふうになる事態を避けるべきだ。これは正論。ただし、ちゃんと理解できるのは、たいてい調子がイイときだけなのだ。

何かがきっかけで、たとえば同じ失敗をくり返したとか、自分が満足できなかったとか、担当者を満足させられなかったとか、あるいはまったく違う何かとかで落ち込んでいたら、そうは考えられない。そんなふうに担当者に言わせるのは、自分のせい、あるいは自分以外のせい、と考え始める。こういうときの、原因追及は手厳しい。いずれにせよ「なんで、相手が自分に対して疑問を持つのはなぜだろう?」という不安でいっぱいになる。そもそもそんな原因なんてないのだから、見つかるはずがない。でも見つからないからさらに不安になって、ついにそのプレッシャーに耐えきれなくなる。

「アタクシも、ここに常駐していたら、そうなるかもしれません」

そう、答えたら「えっ、なんで? それ(その出所)は自意識なの?」と、即座に聞き返された。たぶん違う。いや、そうかもしれない。

こういうことなのだと思う。似たような人々の集団なら、チェックされるところがあってもスルーされる防火壁もある。だけど、さまざまな種類の人間が集まる場合、本来なら見逃されるポイントまでチェックされてしまう。たとえば、サッカー好きの間で話している分には、イチローシアトル・マリナーズでプレイしていることを知らなくたって、それは無知ではないし、むしろ「フツー」だ。野球にウトいことなんて問われない。けれども、サッカー好きも野球好きもどっちも好きでない人もいる集団では「えっ!? あなた、ニュースにもなったのに、イチローの、あの新記録樹立を知らないの??」と、野球にウトいことがアダになることもある。自分でも意識していなかった弱点があぶり出されるというか。いや、ほとんどの場合、考えすぎか勘違いなのだ。でも、そんな逃れようのないカンジとか、緊張感の包囲網のなかで「完璧なワタシ」を演じなければならないプレッシャーは悲劇的に高まってくる。周囲のことを仲間内で愚痴っている間はいい。それが、何かのきっかけで外へ向いたときは、人間関係の衝突につながるし、内に向けば……、この人のようになる。この人の場合は、原稿を書く、ということに絶望してしまったらしい。アタクシもそうなるだろうか。ならないとは限らない。なったとき、何をすればいいだろうか。

集団のなかで生きていくことは、難しい。それがムラであろうと、クニであろうと、質は違うけれど、どちらにもストレスがある。お金があって、仕事があって、恋人があって、それでも不安は止まらない。どれかが欠けていれば、なおさらだ。ただ、絶対に集団に属していなければならないと思わせる何かがあって、そこから外れてしまうことに恐怖するのかもしれない。所属を持たないフリーだからこそ、そういった不安は大きいのかもしれない。そんな不安が、健康までむしばんでしまうのかもしれない。よくわからない。それとも、ここで中断するということが、一つの世代的なビジョンクエストなんだろうか? よくわからない。わかることが怖いのかもしれない。