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apo (id:MANGAMEGAMONDO) が妄想を吐き出していきます。

マルキ・ド・サドの誘惑

今、池袋のジュンク堂で、未知谷刊(横尾忠則の装丁+外箱入り。訳は佐藤晴夫)のマルキ・ド・サド『ジュスチーヌ物語又は美徳の不幸』『ジュリエット物語又は悪徳の栄え』『閨房の哲学』『アリーヌとヴァルクール又は哲学小説』が自由価格本になってる(ジュスチーヌ5250→1500円、ジュリエット10080円→3000円、閨房4120円→1500円、アリーヌ8400円→チェック忘れ)。

4冊まとめて買ってしまいたい気持ちはヤマヤマだったが、いかんせん重い!ので、とりあえず『閨房の哲学』をゲット。うーん、すごくお金を有効活用した気分。なんだけど、いっしょに買った辺見庸『抵抗論』(1400円)が、弱々しく見えるのは気のせいか。量>質に傾きやすいアタクシの心を守ってくれない。(少しは煩悩に、自力で抵抗しろよ、っていうかそのために買ったんだけど、ムリっぽい)

5月にプロヴァンスに行ったとき、友だちに「どこに行きたい? 案内してあげるよ」と言われて、即座にリクエストしたのは、ノストラダムスの家とマルキ・ド・サドの家。「ノストラダムスん家は知ってるけど、サドん家ってどこ?」という友人と、地図をみて「次、○○って標識がでてきたら教えて」といわれながら文盲ナビして、リュベロン地方の山の中へドライブ。来たよ、シャトー・ド・ラコスト。こういう山の腹ン中に埋め込まれたような街ってのは、コート・ダジュールエズ村だけかと思ったら、そうじゃなかった。むしろ南仏では珍しくないらしい。友人によると、プロヴァンスにしろ、リュベロンにしろ、コート・ダジュールにしろ、田舎に都会から移り住んでくる人は多いらしい。ジョニー・デップヴァネッサ・パラディもリュベロンの田舎にシャトーを買って、仕事がないときはこっちでゆっくり住んでるという。だいたいここらへん、ってとこを通ったが、近くにワイン・カーブが点在するホントに山の中だ。

ラコストも坂だらけで、崖にくっつけるように家が建ってる村だ。近くには中世期から使われた公衆洗濯場が残っていて、廃墟になった農家には年代物の農具が放置されている。村の中心部(っていってもあるのは教会と公衆トイレだけ)から、都会から移り住んできたアーティストが開いたアトリエをひやかしながら上っていくと、村を見下ろす山の上にサドの家(シャトー・ド・ラコスト)はある。向こう側の山にはボニュー村が、その反対側にはリュベロン山脈が横たわる。こんな風光明媚なところで、ソドミーに耽ったり、わざわざマルセイユまで出かけていって売春婦をリクルートして鞭打ちしたり、その他もろもろの酒池肉林してたのかと思ったら、サド侯爵の変態っぷりにあらためて身震いがしてきた。心洗われるような雄大な美しい自然をもってしても、人間の業は浄化もされなければ、去勢もされないのか。

パリから逃げてきたサド侯爵がここで暮らした18年は、たぶん刑務所での27年に次いで長い(ちなみに次に長かったのは、家族の要請で入院させられ、最期を迎えた精神病院での12年)。現在、シャトー・ド・ラコストは、ピエール・カルダン(コイツも……)がお買い上げして、手を加えている。崩れ落ちた窓(らしい)の枠組みが残る塔(周囲に壕があって閉じ込められたら逃げられないだろうな、と思わせる)に押っ立てられたクレーンの姿は異様だった。それが反対側のボニューからもよく見える。毎年7月には、ここでオペラや演劇を1か月にわたって上映するラコスト祭が開かれるという。院内で死ぬまで演劇を上映していたサド侯爵は、さぞやお喜びであろう。

追記:ラコスト(Lacoste)の地図
ロンリープラネット2003年版には、標高320メートル、人口417人って書いてあるけど、そんなに人いなかった。なのに売店の兄ちゃんはミョウに垢抜けてて、友だちと二人で「ゲイっぽいわね」とうなづきあった。