壊れたジダンの傷モノMVP
ホームアドバンテージでアルヘンティーナが敗れ、ブラジルが去ったあと、ヨーロピアン・カップになってしまったワールドカップの最後はポルトガルとイタリアを応援した。もちろん、決め手は顔である。美男含有率である。ヌーノ・ゴメスを筆頭に、クリスティアーノ・ロナウド、パウロ・フェレイラほか美男の宝庫であるポルトガルは応援しないわけにいかない。さらにキーパーフェチのアタクシとしては、味方がPKを外していくなか、スーパーセーブで我慢強くチャンスをつないでいったイングランド戦でのリカルドは理想的な正しいラテン系マッチョで、乙女心を激しくゆすぶられた。でもダメだったけど。ファイナルは、ミラニスタだし、イタリアの優勝はうれしい。フランスにはお世話になったけど、フランスサッカーは好きじゃない。嫌いじゃないけど、そもそもフランスサッカーって、イタリアの亜流じゃない? スタープレーヤーはいても、イタリアほどガツガツしたケダモノ感がない。セクシーじゃないのよ。もちろん、顔も含めて。カンナバーロを見なさい、トッティを見なさい、ネスタを見なさい、ピッポを見なさい、ガットゥーゾを見なさい。タイプじゃないけど、ザンブロッタを見なさい、カモラネージを見なさい。みんな、なんて必死で乱暴で美しいんでしょう? まあ、ファイナルのデ・ロッシとイアキンタはイマイチだったわね。傲慢でもなければ、ワイルドでもなかった。
そういう意味で、華麗なテクとワイルドなハートを持ったジダンはやっぱりフランス王だと思う。フランスの中ではいちばんセクシー、アタクシのタイプではないけど。
けれど、美しい野獣カンナバーロとの空中戦で肩を強打したジダンはお気の毒。アレがイライラのトリガーになったと思う。アレ以降、思い通りに動けてなかった。そこに来てマテラッツィへの頭突き。キレたのね、ジダン。なんかまるでジダンが温厚な人格者みたいな報道があるけど、アタクシはまるっきり信用できない。ジダンはキレ方はヒステリックだ。ケズり方だって荒っぽいし、執拗。典型的な蟹座。
フランスの敗北は、ドメネクがカードの切り方を失敗したせいで、ジダンのレッドカードのせいではない、とあえて言いたい。ドツかれたマテラッツィが言ったこと?「アッディーオ*1・ジーズー!! 偉大なイターリアが尊敬するあなたに引導を渡してあげますからね!!」って、ジダンに挨拶したんだと思うよ。リッピに言われて。ドメネクは、延長もPK戦も見越せなかったから、アンリを下げた。肩を負傷したジダンではなく。一方、ジダンのイライラを見抜いたリッピは、ピッチの外からジダンの心をケズリに行った、心理戦で。それが当たった。
だって、知っていたんだもの、リッピは。何がジダンの心の琴線かを。
自分に言われたこと全てに対して、ピッチの上で答えたかったのです。私には特定の誰かに、特別に自分の持っているものを見せるとか、そういった必要は全くありません。ただ、そうは言っても、言ってはならないことがあると思います。例えば、スペイン人のファンが、フランス国歌に対してひどくブーイングしたのは、私にとって心の痛む出来事でした。同じように、私がコーナーキックを蹴るときに、「アディオス(さようなら)、ジネディーヌ・ジダン、アディオス……」と歌われたことにも、傷つきました。それでも今、私の冒険は続きます。彼ら(スペイン代表)が家路についている一方でね。
ジダン自身は、具体的にそれ以上、話さなかったが、彼のチームメートであり、親しい友人でもあるフランス代表のGKファビアン・バルテスは、スペイン代表キャプテンのラウルの態度に対してジダンが不快感を抱いたことを、試合後に極秘に告白した。「ジネディーヌが僕に言ったよ。ふたり(ジダンとラウル)の間のフィーリングが良かったことは、あまりなかったようだよ。でも、だからといって、まさかラウルが公的な場で、ジダンが選手として終わっていると公言するなんて、それは全く予想外の出来事だった。ラウルは試合の後、ジネディーヌを抱きしめにいったけど、それでも(その前に起こったことを)ジネディーヌは忘れないだろうね」
一方、イタリアには勝たなければならないワケがあった。八百長疑惑問題である。セリエC1以下への降格が取り沙汰されているユベントスでは、すでにカペッロ監督が辞任して、来季のレアル・マドリ監督就任が決まった*2。チェルシーとの3年契約を望んでいるとの噂のあるカンナバーロはじめ、ザンブロッタやトレゼゲ、エメルソンにも移籍の噂がある。降格が決まれば、試合で得られる放映権料も賞金も格段に減る。選手自身もチャンスは狭められる。けれど、優勝すれば、処分軽減など“恩赦”が期待できる。事実、世論は“ワールドカップ優勝特赦”に傾いている。蛇足だけれど、リッピは前ユベントス監督で、ユベントスはイタリア代表5人、フランス代表3人を排出している。
フランス内外のマスコミはジダンが何を言われたか、について「人種差別的な発言、あるいは家族への侮辱」などの専門家の憶測を紹介している。それに同情するのは簡単だけど、何を言われ、どうキレようと、それをマネジメントできなかったのは監督の責任だし、何を利用しようがプロスポーツでは「勝利」という実績が上回る。優勝賞金23億円と名声だ。そこにどれだけなりふりかまわずガッつけるっか、という点で、7/3のレキップ紙の一面を凱旋門をバックにした英雄ジダンで飾ったフランスのロマンチシズムは、イタリアに負けていた。
アタクシは、もうジダンが何も言わないことを望む。言ってもムダだし、言ってこれ以上ワールドカップMVP選手という栄光を傷つけること──何を言われようが、自制心を失うというプロとしてあるまじき行為をした現実を色濃くするだけだ──は、やめてほしい。帰れ、マルセイユへ。バラ色のリタイアメントライフが待つプロヴァンスへ。ル・ブルーの国民的英雄としての輝きは、決してあなたの手の中から失われることはないのだから。